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茜色の記憶 13

俺は大学を卒業し、研修を一年間受けた。
爺さんとの約束通り、きちんと卒業はして、研修も受けてはいたが
俺は医者になるつもりはなかった。

体の弱い兄の代わりに親は俺に医者を継いでほしかったらしいが、
俺は次男坊なんで自由にさせてもらっていた。

俺は俺の生き方を択ばせてもらう。
そこには多分、体の弱い兄にかかりっきりだった母親に対して
長男にかかりっきりだった父に対しての寂しさも、反発もあったのだろうと思う。

その代わりに何も望まず、何も期待しないから。

俺が初めて手にしようとしたもの。自分の力で勝負できるもの。
仕事に選ぶのは爺さんの店だと決めていた。

爺さんも俺の熱意に根負けしてバイトでなく、店で働くことを許してくれた。
「今できること、今やりたいことはここなんです」
俺は爺さんを説得した。
爺さんは笑って「そこまで好きになってくださってありがとうございます」
といって店の鍵をくれた。

3年が過ぎた。

フレアを始めて、店でもやれるようになってきたころに
彼女がバイトをやめる、と言ってきた。
そこに猫のようにじっとしていた彼女だからちょっと俺はびっくりしたが
就職する、とのこと。
「お前、やっと卒業か。卒業祝いもしねーとな」
いままでたくさん、よくしてくださってありがとうございました。
彼女は素直に頭を下げた。

「新しい世界への羽ばたきですね。おめでとうございます。
また、いつでもここに来てくださいね」
爺さんはにっこりしてカクテルを出していた。
gipsy_kir-225x3001.jpg 

「ジプシーというカクテルです」
しばしの別れ。ウォッカベースのそのカクテルを彼女は大事そうに飲んでいた。

「これからはそうそう来ないから」

彼女がスマホを差し出し、俺と彼女は連絡先を交換した。
3年もたって初めてだが、一応彼女の中で俺は友人として認識されたらしいことに
地味にうれしかったりもした。

懐かない猫がちょっと寄ってきたような感じ。

送信テストで送ってきたのは昔に見た猫の写真だった。
ふと、あの後姿が思い出された。
これを送ってきた奴が、一度しか見かけてないのになぜか
俺の脳裏によみがえった。

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